前回の記事では、ROIC(投下資本利益率)を現場の言葉に翻訳して浸透させる具体策についてお話ししました。
ROICを社内に導入していくと、次に必ずセットでついて回る、もう一つの「高すぎる横文字の壁」があります。
それが、WACC(ワック:加重平均資本コスト)です。
経営陣から「これからはWACCを上回るROICを叩き出すんだ」という大号令が出たとしても、現場の事業部長から「そもそもWACCって何ですか? コストってことは、経費を減らせばいいんですか?」と聞かれて、説明に詰まってしまった経験はないでしょうか。
教科書的な数式を見せて「株主資本コストと負債コストをね……」と説明しても、現場のシャッターはガシャガシャと閉まってしまいます。
今回は、現場のリーダーである事業部長に「資本コストの本質」を納得してもらい、同じ方向を向いて仕事をするための、噛み砕いた伝え方の工夫をシェアします。
現場に伝えるときのNG例と、一番わかりやすい「たとえ話」
現場に説明するときに一番やってはいけないのは、経理側の自己満足で専門用語を並べることです。
- NGな説明: 「WACCとは、株主資本コストと負債コストを時価ベースのウェイトで加重平均した、我が社の調達資本コストのことです。つまり、最低限クリアすべきハードルレートなんですよ」
これを言われた事業部長は、「あ、経理の中だけでやってください」となってしまいます。
現場に伝えるときは、企業の調達を「個人の住宅ローンや出資」に例えるのが一番ピンときてもらえます。
- おすすめの説明: 「部長、私たちが家を買うとき、銀行からローンを借りますよね。そこには必ず『金利』が発生します。もし、親や親戚から『出資するから、将来増えた分を山分けしよう』と言われてお金を出してもらったなら、ただでお礼なし、というわけにはいきませんよね。会社も全く同じなんです。銀行から借りているお金(利息が必要)と、株主から預かっているお金(配当や株価上昇が必要)の両方に対して、『毎年これくらいのコスト(お礼や金利)を支払わなければいけない』という約束の重みがあります。その『会社全体として、平均して毎年何パーセントのお礼(金利)を支払わなければいけないか』という、お金のレンタル料のパーセンテージ。これがWACCの正体です」
なぜ「経費を減らせばいい」という勘違いが起きるのか?
事業部長からよくある誤解が、「コストという名前がついているから、出張費やコピー代を削ればWACCが下がる(=改善する)のか?」というものです。
経理としてはズッコケそうになりますが、ノンファイナンスの現場からすれば「コスト=経費」と脳内変換されるのは当然の反応です。
ここもしっかりと、線引きを伝えてあげることが大切です。
- 事業部長への伝え方: 「コピー代や旅費などの『経費』は、損益計算書(PL)のコストです。 一方で、WACCは『お金を引っ張ってくるためだけのコスト』なので、現場の皆さんが経費を削ってもWACCの%自体は変わりません。じゃあ、現場の皆さんに何ができるかというと、『WACCというレンタル料以上の利益を、その投資で稼ぐ』ということなんです。例えば、我が社のWACC(お金のレンタル料)が5%だとします。 部長の部署が1億円の設備投資をして、年間で300万円(3%)しか利益を出せなかったら、レンタル料(500万円)が払えずに赤字になってしまいますよね。だから、投資をするときは、このレンタル料の%(WACC)を絶対に超える計画を立てて、きっちり稼ぎ切りましょう、というお話なんです」
「ハードルレート」ではなく「共通の物差し」にする
現場の事業部長は、決して数字を無視したいわけではありません。自分の事業を大きくしたい、新しい投資をして売上を伸ばしたいと、熱意を持って日々戦っています。
そこに経理が「WACCというハードル(障害物)を超えてください」と上から目線で立ちはだかるから、衝突が起きてしまうのです。
そうではなく、「部長がやりたいその投資を、経営陣に一発で通すための『共通の物差し』として、このWACCを一緒に使いましょう」というスタンスで寄り添うことが大切です。
「この投資案なら、WACCをこれくらい上回るリターンが見込めるので、経営会議で堂々とプレゼンできますよ」
そんな風に経理が伴走できるようになれば、WACCは現場を苦しめる謎の横文字ではなく、事業をより強くするための心強いツールに変わっていきます。

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