「今期は目標利益を達成できたから、結果オーライ!」 「売上目標に届かなかったから、とにかく次はもっと頑張れ!」
決算や期末の業績評価の時期になると、社内がこうした「結果の数字」だけで一喜一憂してしまうことはないでしょうか。
もちろん、最終的な利益という「結果」を出すことはビジネスにおいて極めて重要です。しかし、結果だけに目を奪われていると、組織は「なぜその数字が出たのか」という再現性を見失ってしまいます。
そこで今回は、難解な財務指標と思われがちなROIC(投下資本利益率)と「ROICツリー」を使って、組織の評価を『結果重視』から『プロセス重視』へと転換していく実務のアプローチについてお話しします。
良い結果の裏には、通常とは違う「優れた要因」が必ずある
管理会計の世界に向き合っていると、つくづく感じることがあります。それは、「たまたま、何の理由もなく良い結果(利益)が出ることは絶対にない」ということです。
例えば、ある事業部の今期の利益が、計画を大幅に上回って過去最高を記録したとします。
従来のPL(損益計算書)だけの管理だと、「素晴らしい! 来期もこの調子で頼むよ」で終わってしまいがちです。しかし、これでは現場は「次は何を頑張ればいいのか」が分かりません。市場の追い風に乗っただけなのか、現場のどんな工夫が実を結んだのかがブラックボックスのままだからです。
通常とは違う、突き抜けて良い結果が得られたとき、そのプロセスのどこかには、通常とは違う「良い結果を引き起こした具体的な要因(アクション)」が必ず隠れています。その隠れた功労者を、ファクトベースで綺麗に引っ張り出してくれる道具こそが、前回ご紹介した「ROICツリー」です。
ROICツリーは、優れたプロセスを解き明かす「レントゲン」
ROICツリーは、トップの効率性(ROIC)から、PL(利益率)とBS(資産効率)の両輪に向けて、現場の具体的な行動(KPI)へと細かく枝分かれしていく設計図です。
結果が良かった事業部の数字をこのツリーに落とし込んで、前年や計画の数字と「引き算」をしてみると、ツリーの末端のどこかで、通常とは明らかに違う動きをしている「異常値(=ポジティブな要因)」がレントゲン写真のようにくっきりと浮き彫りになります。
- PLの枝を辿ってみると: 「売上が伸びた」だけでなく、実は「特定の製品の原価率が2%下がっていた」。現場のリーダーが製造工程のロスを減らすプロセスを徹底したことが、真のブレイクスルーだったと分かります。
- BSの枝を辿ってみると: 利益の額以上に、実は「棚卸資産(在庫)の回転日数が5日短縮されていた」。営業と工場が密に連携して、過剰な作り置きをなくすという優れた業務プロセスが機能していたことが分かります。
このように、ROICツリーを使うことで、「利益が出た」という最終結果から逆算して、「プロセスにおけるどの歯車が、通常と違って上手く噛み合っていたのか」をロジカルに特定することができるのです。
プロセスを可視化することで、組織に「再現性」が生まれる
なぜ、経理がここまでして「良い結果の要因」をツリーで突き止めなければいけないのでしょうか。それは、優れたプロセスを特定して初めて、組織に「再現性」がもたらされるからです。
要因が「現場のプロセス(工夫)」にあると分かれば、それを標準化して来期も続けることができますし、他の事業部へ「ベストプラクティス(成功事例)」として横展開することもできます。
逆に、ツリーを検証した結果「プロセスは何も変わっていないのに、単に原材料の市場価格が下がっただけ(外部要因)」だと分かれば、経営陣に対して「結果の数字は良いですが、プロセスの革新はないため、来期は再びリスクがあります」と、地に足の着いた冷徹なフィードバックを返すことができます。
現場のメンバーにとっても、「結果の数字(利益)だけで詰められる、あるいは褒められる」よりも、「自分の取り組んだプロセスの改善(在庫を減らした、原価を下げたなど)が、全社の資本効率にどう貢献したか」を評価してもらえる方が、圧倒的に納得感が高く、次へのモチベーションに繋がります。
まとめ:経理が組織の「プロセスの伴走者」になる
ROICという物差しを社内に導入する本当の価値は、投資家向けのポーズでも、細かな計算の正確性を競うことでもありません。
結果という「過去」の数字だけを見て一喜一憂する組織から、その背景にあるプロセスという「現在・未来」のアクションに目を向ける組織へと、社内の目線をシフトさせるための強力な触媒(レバー)になることです。
「今回業績が良かったのは、ツリーで言うと、みなさんのこのプロセスの改善が効いているからですね」
経理がそんな風にデータを基に現場に寄り添い、優れたプロセスを一緒に発見して称えることができるようになれば、バックオフィスは単なる「数字の集計係」から、組織の成長を支える本当の「伴走者」になっていけるはずです。
